「負けた人のおごり」と賭博罪

現役のプロ野球選手が、野球賭博で金銭を賭けたことを理由に、球団から謹慎処分を受けたとの報道がなされました。刑法上の賭博罪が成立する可能性もあるため、球団は警察への届出も検討しているとのことです。

もっとも、「負けた人のおごり」との約束の下、食べ物を賭けるようなケースは、そう珍しくはないでしょう。では、野球の試合結果に関し、金銭ではなく、缶ジュース1本を賭けた場合であっても、賭博罪は成立するのでしょうか。

 

結論としては、賭博罪(刑法185条本文)は成立しないと考えられます。

 

賭博とは、偶然の勝敗により財物や財産上の利益の得喪を争う行為をいい、囲碁や将棋などのように、当事者の技量に差がある場合でも、偶然的要素があれば賭博にあたると解されております。

野球の試合には偶然的要素がありますので、野球の勝敗で缶ジュースという財物の得喪を争う行為は、形式的には賭博行為にあたると考えられます。

 

しかし、「一時の娯楽に供する物を賭けたにとどまるとき」は、日常的娯楽の範囲内であり処罰するほどの違法性がないとして、賭博罪は成立しません(刑法185条ただし書)。

「一時の娯楽に供する物」にあたるかについては、価格の僅少性と費消の即時性の両方を加味して判断されており、一般には、その場で直ちに費消する茶菓や食事等がこれにあたると解されております。

 

したがって、野球の勝敗で缶ジュース1本を賭けたとしても、「一時の娯楽に供する物を賭けたにとどまるとき」にあたり、賭博罪は成立しません。

 

なお、金銭そのものの得喪を争う場合は、その金額の多少に関わらず、「一時の娯楽に供する物を賭けたにとどまるとき」に該当しないとするのが判例ですので、注意が必要です。

弁護士 平岡 広輔