釣り銭をめぐる犯罪について

店で支払を済ませた客が、多く手渡された釣り銭を持ち去ったところ、後日逮捕された。このようなニュースを先日耳にしました。釣り銭が多く手渡されることは、日々買物をする中で、そう珍しいことではありません。そこで、本来よりも多額の釣り銭を受領する行為、又は、多く手渡された釣り銭を返還しない行為に関して成立する犯罪について、考えてみたいと思います。

 

【店員から釣り銭を手渡される前に釣り銭が多いと気付いたが、黙って釣り銭を受領する場合】

この場合、詐欺罪(刑法246条1項)が成立します。

 

店員から釣り銭が手渡される前に、釣り銭が多いと気付いたにも関わらず、黙ってこれを受領する行為については、釣り銭が多いことを店員に告知する義務に違反することから、不作為による詐欺罪が成立します。客が告知義務に違反した結果、店員が騙されて釣銭を交付したということになるのです。

なお、判例が不作為による詐欺を認めた他の事例としては、誤った振込による入金であることを知りながら、それを秘して預金の払い戻しを受けた事例があります。

 

【店員から釣り銭を手渡された後、自宅に帰ってから釣り銭が多いと気付いたが、これを返還しない場合】

この場合、詐欺罪は成立しません。

 

刑法246条1項の詐欺罪が成立するには、店員が騙されて釣銭を交付する、という関係が必要ですが、客が釣銭を手渡された後に、自宅で多いことに気づいた場合には、この関係がありません。法律的には欺罔による処分行為がないということになります。したがって、刑法246条1項の詐欺罪は成立しません。なお、同条2項による詐欺罪も、店員による債務免除などの処分行為がありませんので、成立しません。したがって、客が釣銭を手渡された後に自宅で気づいた場合には、詐欺罪は成立しません。

もっとも、この場合には、占有離脱物横領罪(刑法254条)が成立します。
最終的に詐欺罪にならないとしても、占有離脱物横領罪にはなりますし、詐欺罪の容疑で逮捕されることはあり得ますので、多すぎるお釣りに気づいたら直ちに返還すべきことはいうまでもありません。

弁護士 平岡 広輔