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2016.05.18更新

 近頃,ドッグランやペット同伴可能な行楽施設が増えたこともあり,ペットが同乗している車両をよく見かけます。では,ペット同乗中に交通事故に遭い,ペットが負傷した場合,人間が負傷した場合と同様の補償が受けられるのでしょうか?

 

 最近公刊された同乗中の飼い犬が怪我をした裁判例(大阪地裁平成27年8月25日判決)とペット損害のリーディングケースといわれる裁判例(名古屋高裁平成20年4月25日判決)を参考に,2回に分けて検討してみたいと思います。

 

ペットの法的位置づけ

 ペットは,法律上,飼い主の所有物である「動産」(民法85条,86条)とみなされ,車などと同様の「物」として位置づけられることとなります。同じ生物であっても「人」とは,その位置づけが大きく異なります。

 もっとも,ペットを単なる「物」である言い切ってしまうのは,ペットが家族の一員のようにかけがえのない存在であり,生命を持つ唯一無二の存在であることに照らすと,違和感を覚えるところです。

 ペット損害に関する裁判では,このようなペットが有する実態と法的位置づけの「ズレ」をどのように解消していくのかが議論されることになります。

 

ペットの治療費は全て賠償対象となるのか?

 交通事故により車両が壊れた場合,当該車両の修理に必要かつ相当な修理費は賠償対象の損害として認められます。

 車両と同様,ペットの治療費も,当該ペットの治療に必要かつ相当な範囲の治療費である限り,賠償対象となることに争いはありません。
 上記大阪地裁の裁判例においても,実支払い治療費12万4610円全額が損害として認定されています。

 

 ところで,車両損害については,修理費が,当該車両の客観的価値を超過する場合,当該車両の客観的価値が賠償額の上限を画することとなる「経済的全損」といわれる基準が存在します。では,ペットが車両と同様の「動産」だとすると,当該ペットの治療費が事故時点における当該ペットの客観的価値を越えてしまった場合,必要かつ相当な治療費を支払っていても,当該ペットの客観的価値の限度でしか賠償が認められないのでしょうか?

 

 リーディングケースとして紹介する名古屋高裁裁判例は,まさに,この点が争点となった事例です。

 

 第一審の名古屋地裁が,飼い犬の治療費約76万円を賠償対象の損害として認定したところ,名古屋高裁は「愛玩動物のうち家族の一員であるかのように遇されているものが不法行為によって負傷した場合の治療費等については,生命を持つ動物の性質上,必ずしも当該動物の時価相当額に限られるとするべきではなく,当面の治療やその生命の確保・維持に必要不可欠なものについては,時価相当額を念頭に置いた上で,社会通念上,相当と認められる限度において,不法行為との間に因果関係のある損害に当たるものと解するのが相当である」と判断し,当該飼い犬の購入費が6万5000円であったことを踏まえ,治療内容を検討し,治療費等のうち,13万6500円の限度で,事故と相当因果関係ある損害と認めました。

 

 認定金額については異論もあるところですが,その示した判断基準自体は,上記「ズレ」に正面から向かいあった先例的価値のある判断であったといえます(つづく)。

弁護士 荒木 邦彦

 

2016.04.19更新

 最高裁判所が、交通事故審理を迅速化するために、争点を絞り込みやすい訴訟の進め方や判決のモデルを今年秋頃までに作成する予定であるとの報道がなされました。2000年に弁護士保険が商品化されて以降、簡易裁判所における交通事故の訴訟件数が急増したうえ、審理期間の長期化や地方裁判所への控訴割合の増大がみられることから、最高裁は上記モデルの作成を決めたようです。

 

 審理の迅速化は、紛争の早期解決につながりますので、言うまでもなく、当事者にとって利益となります。そのため、最高裁が上記モデルを作成することは、望ましいことだと考えます。

 私が担当した交通事故訴訟においても、相手方当事者による五月雨式の主張立証を裁判所が許容した結果、審理が必要以上に長引いたケースがありました。仮に上記モデルがあれば、早い段階で争点を絞り込むことで、迅速な審理が実現できたのではないかと思います。

 

 上記モデルの内容について、引続き注視致します。

弁護士 平岡 広輔

2016.03.01更新

 今年も,日弁連交通事故相談センター東京支部「民交通事故訴訟 損害賠償額算定基準」が刊行されました。この本は,年1回刊行される,通称「赤い本」と呼ばれる本であり,裁判所,保険会社,弁護士含め交通事故事件関係者が,損害賠償額算定に際し必ず参照する,交通実務に大きな影響力ある本となります。

 

 今年度版では,入通院慰謝料の項目につき,大きな改訂がありました。

 

 入通院慰謝料は,怪我治療期間における種々の精神的・肉体的苦痛を慰謝するために支払われる賠償費目の一つであり,総治療期間や実通院日数等をもとに算定される損害です。

 

 赤い本においては,入院期間・通院期間をもとに原則的な賠償額基準を示した別表Ⅰに加え,特例として別表Ⅱという基準が示されています。

 

 これまで,別表Ⅱについては「むち打ち症で他覚症状がない場合は別表Ⅱを使用する。この場合,慰謝料算定のための通院期間は,その期間を限度として,実治療日数の3倍程度を目安とする。」との説明がなされていました。

 

 しかし,今年度版からは「むち打ち症で他覚所見がない場合等(軽い打撲・軽い挫傷を含む)は,入通院期間を基礎として別表Ⅱを使用する。通院が長期にわたる場合は,症状,治療内容,通院頻度をふまえ実通院日数の3倍程度を慰謝料算定のための通院期間の目安とすることもある。」との説明に変更となりました。

 

変更点は,以下の2点となります。

①別表Ⅱは,他覚症状のないむち打ち症だけではなく「軽い打撲,軽い挫傷」にも適用される。

②慰謝料算定は,総治療期間に基づき算出されるのが原則であり,実通院日数の3倍程度を目安とするのは,例外的な場合(通院が長期の場合)に限られ,かつ,症状,治療内容,通院頻度から,総治療期間に基づく算定不相当な場合に限られる。

 

 では,今回の改訂でむち打ち症に関する慰謝料額に大きな変化はあるのでしょうか? 

 私個人の感想としては,裁判実務に関する限り,大きな変化はないと考えています。

 

 今回の『実日数×3倍基準』の改訂は,東京地裁民事27部(交通事故専門部)の平成21年1月から平成26年3月までに言い渡された別表Ⅱを適用すべき判決の分析から,同基準が必ずしも厳密に適用されていないとの結論を得て(平成27年赤い本下巻81頁以下),改訂されたものとなります。

 『実通院日数×3倍基準』が,裁判実務上,絶対的なものとして機能してはいないとの現状を追認した改訂ですので,認定される慰謝料額に大きな変化はないと考えます。
 なお,上記分析結果からみて,改訂基準でいうところの「通院が長期」とは,少なくとも90日以上の総治療期間を要した事案が想定されているようです。

 

 他方,保険会社との任意交渉においては,『実通院日数×3倍基準』が,当然の前提・絶対的な基準として主張・適用されている例が間々見受けられました。よって,保険会社との任意交渉においては,ある程度の影響が見込まれるところです。

 

 『実通院日数×3倍基準』によると,むち打ち症で苦しみながらも,仕事上・生活上の都合で頻繁な通院ができず、痛みをこらえて生活を送る被害者には,充分な賠償がなされないこととなります。

 

 今回の改訂を機に,被害者の実情にあった適切な賠償を受けられる場面が増えるかもしれません。

弁護士 荒木 邦彦

 

2015.10.28更新

 近頃,「鉄道の駅構内においてキャリーバックを曳いていた者の歩行者に対する不法行為が認められた事例」という珍しい裁判例に接しました(判例時報2267号63頁)

 

 駅中や町中では,老若男女問わずキャリーバックを使用している人々をよく見かけます。

 キャリーバックは多くの荷物を少ない労力で運べる非常に便利な道具ですが,他方で,視界が及びにくい足下付近を移動するため,周囲の人にとっては見つけにくい物体であり,また,曳いている人にとっても,自身の視界外にバックが位置するため,どうしても注意が及びにくいという特徴があります。実際,キャリーバックに関連する事故が多く発生しており,国民生活センターにおいても,キャリーバック使用時の注意喚起等を行っているところです。http://www.kokusen.go.jp/kiken/pdf/294dl_kiken.pdf

 

 本件は,駅構内通路の曲がり角部分において,被告が曳いていたキャリーバックに,対向進行してきた高齢男性である原告が接触し転倒しケガを負ったとして,原告が,被告に対し,ケガの治療等を請求した事案です。

 裁判所はキャリーバックを使用した被告に対し「駅構内のような人通りの多い場所でキャリーバックを使用する場合には,曳いているキャリーバックが他の歩行者の歩行を妨げたり,それにつまづいて転倒させることのないよう注意すべき義務」があることを認め,当該注意義務違反の結果,本件事故が発生したと認定しました。

 他方,原告についても「歩行中は前方及び足下に注意し,特に駅構内のような通行人の多い場所では,対向の歩行者が大量の荷物を持っていたり,キャリーバックを曳いていることは当然予測できることである」として,本件事故における原告側過失割合を25%と認定しました。

 

 各歩行者が負う注意義務の内容は裁判例が示すとおりであろうと思います。ただし,本件判断における過失割合は,あくまでも曲がり角という視認性に問題ある場所での事故であることや原告が高齢者であることを踏まえた個別的判断であり,同種事故であっても,発生時間帯,通行量などの事故発生場所の客観的状況,キャリーバックの形状,各人の具体的歩行態様,被害者・加害者の年齢や身体的状況等によって,過失割合が大きく変わる可能性があります。この裁判をもって,直ちに,キャリーバック接触事故は,怪我をした歩行者の過失割合が低いのが当然と考えることはできません。この点,注意が必要です。

 

 なお,会社の営業マンが営業資料をキャリーケースに入れ営業先に向かう途中に本件と同種事故が起きてしまった場合,会社は,被害者への賠償責任を負うのでしょうか?
 また,対向歩行者が接触したのが,キャリーケースではなく,高齢者の杖や松葉杖の場合やベビーカーだったとしたら,注意義務違反の内容,過失割合の結論は異なることになるのでしょうか?

 

 機会がありましたら,改めて検討結果をお知らせしようと思います。

弁護士 荒木 邦彦

2015.09.28更新

 先日、従業員が社有車で交通事故を何回も起こしたので、ペナルティを設けたい、というご相談がありました。この点でお悩みになっている経営者・人事労務担当者の方も多いかと存じます。そこで、本件についてご回答致します。

 

 まず、会社の損害の有無にかかわらず、金銭的なペナルティ(罰、懲戒)を与えることができるかですが、会社がペナルティを与えて給与額を減額するには、労働基準法上の「減給」(労働基準法91条)の規定に従う必要があります。

 

 「就業規則で、労働者に対して減給の制裁を定める場合においては、その減給は、一回の額が平均賃金の一日分の半額を超え、総額が一賃金支払期における賃金の総額の十分の一を超えてはならない。」のです。したがって1日分の平均賃金が1万円の従業員の場合、最大5000円までしかペナルティを与えられません。

 

 これでは額が小さすぎるという場合は、会社に生じた損害の求償を求めるという見地から、事実上のペナルティを設けることが可能です。
 もっとも社有車の場合、自動車賠償保険に加入しているはずであって、実際は、車両保険の免責金額(5万円や10万円程度)しか会社としての損害は発生しません。したがって、保険の免責金額が0の場合は、上記の減給しか行えません。

 

 保険の免責金額がある場合に、免責金額の全額の求償を従業員に求めることができるか、が問題となりますが、裁判例は否定的です。会社は従業員の働きによって利益を得ているのだから、従業員が起こした事故についても会社が責任を負担すべきであって、従業員への求償は一部に限られるという考え方です。
 したがって、従業員へ損害額の求償を求めるにしても、会社に生じた損害額の一部に限られます。

 

 次に、求償を求める場合に、予め求償する額を定めることが、労働基準法16条の「損害賠償額の予定の禁止」に該当するかが問題となります。しかし同条は、実損害額の多寡にかかわらず一定の損害賠償額を予定することを禁止したものであって、本件のように、実損害額の一部しか求償しないことまでも禁止したものではないと解されます。もっとも前述したとおり、従業員への求償は実損害額の一部に限られますので、予め定める求償額は、裁判所が認定するであろう実損害額の一部より低額であることが必要と解されます。

 

 最後に、求償を求める場合に、給与からの天引きが可能かどうかですが、この点は、従業員の同意があれば可能です。他方、従業員の同意なく一方的に天引することはできません。

 社有車の使用に際して、上記の求償制度を説明して、従業員から同意書を取っておくことで、給与からの天引きが可能となります。
 会社としては、求償額を少しでも多く取りたいというより、事故を起こさないよう慎重に運転してほしい、という願いの方が強いものと存じます。そのため、事故防止を図りつつ従業員に過酷になりすぎないよう、バランスの取れた制度設計が必要です。

弁護士 高橋 謙治

2015.09.16更新

 交通事故の解決において争いとなることが多い問題の一つが「過失割合」です。

 

 現在,訴訟,任意交渉問わず,交通事故の過失割合を判断する際,重要な役割を担っているのが,判例タイムズ社が発行する「別冊判例タイムズ38 民事交通訴訟における過失相殺率の認定基準 全訂5版」と言われる緑色の本です。

 http://www.fujisan.co.jp/product/1281695978/b/1169424/

 

 この本は,交通事故専門部である東京地方裁判所民事第27部の裁判官が中心となって作成され,昭和50年の初版以来5度の改訂を経て,現在では,合計338ケースもの事故類型につき,基本的な過失相殺率・割合とその修正要素が記載された本となります。

 

 では,どうして裁判官が作成したこの基準が,訴訟・任意交渉の交通事故過失割合判断において重要な役割を担っているのでしょうか?

 

 交通事故は,日々,日本全国で津々浦々で発生しています。ある日,北海道と沖縄で全く同じ事故が発生したと仮定しましょう。何れも裁判になり,北海道のA裁判官は「0:100」と判断し,沖縄のB裁判官は「50:50」と判断しました。この結論をみなさんはどう思われますか?どこで事故に遭遇するかは選べません。裁判において担当裁判官を指名することもできません。各裁判官が独自の考えだけで過失割合を判断することになると,裁判が,まるで,くじ引きのように「当たり」に期待するような不安定なものとなってしまいます。

 

 そこで,全国的に交通事故事件が増加した昭和40年代以降,裁判所としては,裁判官が過失割合を判断する際の指針を示し,同じ事故については,日本のどこで起きた事故でも,どの裁判官が担当しても,同じ過失割合の判断がなされるよう整備する必要が生じました。その結果,作成された基準がこの本のもととなっているのです。

 

 また,過失割合に争いある全ての交通事故が裁判として裁判所に持ち込まれては,裁判所はパンクしてしまいます。そこで,訴訟となった場合に裁判所が用いる判断基準を公表することで,訴訟前の任意交渉においても,将来の訴訟に至った場合予想される過失割合を前提に交渉・解決されることを期待し,裁判官向けの基準を広く一般にも公表するに至りました。

 

 この本が示す基準が,以上のような経緯で作成されたものである以上,弁護士としても,これを無視することはできません。しかし他方で,基準を絶対的なものとしては扱いません。当事務所では,依頼者のお話しをお伺いしたうえで,当該基準ケースの例外に該当する余地がないか,仮に該当する場合でも,より有利となる事情が存在しないのかを見極め,依頼者の方が納得できる適切・妥当な過失割合での解決を目指しています。

弁護士 荒木 邦彦

 

 

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