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2015.09.28更新

 先日、従業員が社有車で交通事故を何回も起こしたので、ペナルティを設けたい、というご相談がありました。この点でお悩みになっている経営者・人事労務担当者の方も多いかと存じます。そこで、本件についてご回答致します。

 

 まず、会社の損害の有無にかかわらず、金銭的なペナルティ(罰、懲戒)を与えることができるかですが、会社がペナルティを与えて給与額を減額するには、労働基準法上の「減給」(労働基準法91条)の規定に従う必要があります。

 

 「就業規則で、労働者に対して減給の制裁を定める場合においては、その減給は、一回の額が平均賃金の一日分の半額を超え、総額が一賃金支払期における賃金の総額の十分の一を超えてはならない。」のです。したがって1日分の平均賃金が1万円の従業員の場合、最大5000円までしかペナルティを与えられません。

 

 これでは額が小さすぎるという場合は、会社に生じた損害の求償を求めるという見地から、事実上のペナルティを設けることが可能です。
 もっとも社有車の場合、自動車賠償保険に加入しているはずであって、実際は、車両保険の免責金額(5万円や10万円程度)しか会社としての損害は発生しません。したがって、保険の免責金額が0の場合は、上記の減給しか行えません。

 

 保険の免責金額がある場合に、免責金額の全額の求償を従業員に求めることができるか、が問題となりますが、裁判例は否定的です。会社は従業員の働きによって利益を得ているのだから、従業員が起こした事故についても会社が責任を負担すべきであって、従業員への求償は一部に限られるという考え方です。
 したがって、従業員へ損害額の求償を求めるにしても、会社に生じた損害額の一部に限られます。

 

 次に、求償を求める場合に、予め求償する額を定めることが、労働基準法16条の「損害賠償額の予定の禁止」に該当するかが問題となります。しかし同条は、実損害額の多寡にかかわらず一定の損害賠償額を予定することを禁止したものであって、本件のように、実損害額の一部しか求償しないことまでも禁止したものではないと解されます。もっとも前述したとおり、従業員への求償は実損害額の一部に限られますので、予め定める求償額は、裁判所が認定するであろう実損害額の一部より低額であることが必要と解されます。

 

 最後に、求償を求める場合に、給与からの天引きが可能かどうかですが、この点は、従業員の同意があれば可能です。他方、従業員の同意なく一方的に天引することはできません。

 社有車の使用に際して、上記の求償制度を説明して、従業員から同意書を取っておくことで、給与からの天引きが可能となります。
 会社としては、求償額を少しでも多く取りたいというより、事故を起こさないよう慎重に運転してほしい、という願いの方が強いものと存じます。そのため、事故防止を図りつつ従業員に過酷になりすぎないよう、バランスの取れた制度設計が必要です。

弁護士 高橋 謙治

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