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2015.12.02更新

 2015年3月に最高裁(最判平成27年3月10日裁判所HP参照(平成26年(あ)第948号))は,競馬の当たり馬券の払戻金は所得税法上の一時所得ではなく雑所得であるとし,外れ馬券の購入代金について,雑所得である当たり馬券の払戻金から所得税法上の必要経費として控除できるという判断を示しました。
 報道等でこの裁判をご覧になって,外れ馬券の購入費用は必要経費として控除できるのだと認識された方も多いと思います。

 しかしながら,この最高裁判例が出た後で,外れ馬券の購入費用は経費ではないと判断する裁判例が出ていることはご存知でしょうか。
 2015年5月14日に出た東京地裁の判決(東京地判平成27年5月14日裁判所HP参照(平成24年(行ウ)第849号))では,当たり馬券の払戻金は一時所得であり,外れ馬券の購入費用を収入から控除することはできないと判断されています。
 この東京地裁の判決は,最高裁の考え方を否定しているのでしょうか。
 東京地裁の判決を読んでみると東京地裁判決が最高裁の判断を否定しているわけではないようです。というのは,東京地裁の判決では,3月の最高裁判決の判断基準が引用され,同じ枠組みで判断をしているからです。

 最高裁の考え方は,「営利を目的とする継続的行為から生じた所得は,一時所得ではなく雑所得に区分され」る,「営利を目的とする継続的行為から生じた所得であるか否かは,行為の期間,回数,頻度その他の態様,利益発生の規模,期間その他の状況等の事情を総合考慮して判断する」というもので,東京地裁の判決でもこの判断の枠組みは踏襲されています。

 それでは,なぜ結論が違っているのでしょうか。
 この理由は,両事案における馬券購入の態様が異なっていたことにあるようです。
 最高裁の事案では,馬券を自動的に購入するソフトを使用してインターネットを介して長期間にわたり多数回かつ頻繁に個々の馬券の的中に着目しない網羅的な購入を行っていたのに対し,東京地裁の事案では,最高裁の事案と同等以上の金額の馬券を購入し,同等以上の利益を得ていたという事情はあるものの,具体的にどのように馬券を購入していたか明らかでないので,その競馬による所得は,営利を目的とする継続的行為から生じた所得(雑所得)に該当しないと評価されています。
 最高裁の事案では,馬券を自動的に購入するソフトを使って一日に数百万円から数千万円,一年あたり10億円前後の馬券を購入し続けていたというのですから驚きです。
 両者の事案を比較してみると,通常の態様の馬券の購入では,その購入費用を経費とすることはできず,むしろ,外れ馬券の購入費用が経費となるケースは,レアケースと評価できると思います。
 報道等で紹介されている裁判例が一般的なケースに当てはまるものか,そうでないのかは,分かりにくい部分もあると思います。気になる裁判例がありましたらご相談頂ければと思います。

弁護士 藤井 直孝

2015.11.30更新

 先日、大沢樹生さんが息子さんとDNA鑑定をした結果、家庭裁判所において親子関係が存在しないとの判決が出されたとのニュースが流れました。

 男性にとって、子どもが自分の子供であるかどうか、たいへん重大な問題であり、大沢さんはどうやら子どもが大きくなるにつれて、外見などからも自分の子供であるかどうか、疑問を感じていたようです。

 ところでもし、男性が自分の子どもであるかどうか疑問が生まれ、DNA鑑定をしたところ、不幸にも親子関係が認められないという結果が生じた場合、常に法律上、親子関係の不存在請求が認められるのでしょうか。

 答えはNOです。仮にDNA鑑定において父と子どもの親子関係がないという結論が出たとしても、法律上の親子関係が続くことがあるのです。

 この点について認めた最高裁判例があります。

 平成26年7月17日に出された判例において、最高裁は夫と子との間に生物学上の父子関係が認められないことが科学的証拠により明らかであり、かつ、子が現時点で夫の下で監護されておらず、妻及び生物学上の父の下で順調に成長しているという事情があっても、子の身分関係の法的安定を保持する必要が当然になくなるものではなく、特別な事情もないとして、親子関係不存在請求を認めませんでした。

 このように、民法上、婚姻から200日経過後、離婚後300日以内に生まれた子どもについては、夫の子どもであると推定され、この推定を覆すには原則として嫡出否認の訴えという方法となりますが、この嫡出否認の訴えは、父からしか申し立てることが出来ず、しかも申立が可能な期間も子どもの出生を知ってから1年と極めて限定されているのが特徴です。

 ただ、上記の最高裁判例で指摘されていますが、この200日以降、300日以内に生まれた子どもの推定は、子どもの懐胎時期に、すでに事実上別居していたり、遠隔地に居住しているなどの特別な事情があれば、嫡出子としての推定が及ばず、この場合には嫡出否認の請求ではなく、親子関係不存在確認の訴えで親子関係を否定することが出来るとされています。この親子関係不存在の訴えについては、特に申立可能な期間制限もなく、父だけでなく母や子どもからも訴えを起こすことが可能です。

 今回、大沢さんの件では、この200日以降という条件に当てはまらず、200日以内に生まれた子どもであるとのことですので、大沢さんの嫡出子であるとの推定がされず、親子関係不存在の訴えが認められたようです。

 親子関係が認められるかどうかについては、上記の通りDNA鑑定の結果だけでなく、法律上の嫡出子としての推定の問題がありますので、もしその問題でお悩みの方は専門家にご相談ください。

弁護士 中村 仁志

2015.10.30更新

 日産自動車、トヨタ自動車に続き、ホンダが、高速道路での追越しや先行車への追随などの機能を市販車に搭載する方針を決めたとの報道がなされました。海外においては、米ゼネラル・モーターズが、高速道路での自動運転機能を搭載した車両の発売を予定しており、米グーグルは、ハンドルやブレーキのない自動運転車を開発しているようです。
 このように、自動運転車の開発は世界的な潮流であり、そう遠くない将来、自動運転車が公道を実際に走行するものと思われます。

 

 しかしながら、自動運転車に対応した法令は、現在のところ整備されておりません。

 

 例えば、自動車の運転方法については道路交通法が規定しておりますが、人間が運転することが前提とされており、機械が自動運転することは想定されていません。そのため、機械による完全な自動運転を許容するのであれば、道交法を改正する必要があります。

 また、自動運転車には、事故の減少という効果が期待されておりますが、事故が完全に無くなることはないでしょう。自動運転車による事故が発生した場合、賠償責任を負うのが、自動運転車に情報を入力した人間なのか、自動車メーカーなのか、あるいはその双方なのかという点も、法令上明らかではありません。

 

 このように、法令が未整備であることに鑑み、警察庁は、平成27年10月15日、庁内に有識者を交えた検討委員会を設置すると発表しました。委員会には、刑法や行政法、工学などの専門家が参加し、法令上の課題や事故時の責任問題などが検討されるようです。

 

 自動運転車に関する法令の整備に関しては、引続き、その動向を注視したいと思います。

弁護士 平岡 広輔

2015.10.08更新

 2015年9月,クロザルが撮影した写真を写真集として出版した写真家と出版社に対し,動物愛護団体が,アメリカで,クロザルの著作権を侵害しているとして訴訟を提起したとのニュースがありました。

 

 記事によると写真家であるDavid氏がインドネシア・スラウェシ島で撮影をしていた際に,野生のクロザル(絶滅危惧種)がDavid氏のカメラを奪ってガチャガチャといじっている間に,自撮りするなどしたことから,絶滅危惧種である貴重なクロザルの写真が撮れたため,それらをDavid氏の写真集として出版したところ,動物愛護団体がクロザルの撮影した写真の著作権はクロザルにあるとして訴訟を提起したようです。

 

 この件について,アメリカの著作権局では,動物が創作した作品に著作権は認められない,動物が撮影した写真は著作物ではないという見解を示しているようです。

 

 日本でも,今のところ,著作物は,人によって創作されるものであるという理解を前提としておりますので,クロザルの撮影した写真は著作物ではないという結論になりそうです。

 

 しかしながら,著作物が人によって創作されるものに限定されるのかという問題や,あるいは,動物が自撮りした画像が著作物であるとした場合に,その著作権はカメラの所有者に帰属するのかなど,今回のクロザルの訴訟では,興味深い議論が展開されそうです。

 

 今後の訴訟の推移についても見守りたいと思います。

弁護士 藤井 直孝

2015.10.02更新

 前回の私の投稿(平成27年9月9日の記事)ではマイナンバーについて書きましたが,最近見たニュースに関連して個人情報関連の記事をもう一つ。

 

 先日,ニュースを見ていたら,最近,亡くなられた方の遺族からの依頼で,死者が生前使用していた携帯電話やパソコンのデータを復旧させ,その中身を遺族らに引き渡すサービスが人気を呼んでいるという特集をやっていました。

 

 率直な感想としては,思い出をよみがえらせ,死者とのつながりを保ちたいというご遺族の気持ちはわかるものの,正直,自分が当事者となった場合を想像すると,(やましいことはないものの)自分の携帯やパソコン内のデータを自分のいないところで勝手に見られるというのには抵抗がありますが,全く気にならないという意見の方も多いようで,人によって意見が分かれるところのようです。

 

 ところで,こうした死者の情報を遺族が見る行為については,既に保護対象となる権利者本人が存在しないため,法律的にはこの行為が死者本人のプライバシーの侵害となることはありません。

 

 また,これと関連して死者の個人情報に関する法律上の扱いについてご説明すると,個人情報保護法においても保護の対象は「生存する個人」に関する情報とされているため,死者の個人情報は,同法によって保護される個人情報にはあたらないこととなります(その結果,遺族が死者のカルテの開示を病院に求めるようなケースでは,遺族であれば任意の開示に応じる病院がある一方,病院によっては死者の個人情報は同法で開示が義務づけられている個人情報にあたらないとの判断で,任意のカルテ開示には応じないところもあり,取扱が統一されていないようです。) 。

 

 では,こうした死者の個人情報・プライバシーについては法律上何ら保護されていないかというと,虚偽の事実を示して行われた場合に限られますが,死者に対しても名誉棄損罪は成立するため(刑法230条2項) ,ご遺族の告訴によって名誉棄損罪が成立する余地はあります。

 

 また,死者に関する情報の漏えい等によって遺族に損害を与えたといえる場合であれば,それは遺族に対する不法行為となるため,遺族が損害賠償を請求することは可能と考えられます。

 

 現代は,インターネットの普及等によって,故人に関する情報も拡散しやすく,ご遺族が不当な被害を受ける危険性も格段に高まっているのではないかと思います。
 そのような場合にも,早めに一度専門家にご相談頂ければと思います。

弁護士 横山 太郎

2015.09.09更新

 先週,平成27年9月3日に改正マイナンバー法(正式名称:「行政手続きにおける特定の個人を識別するための番号の利用等に関する法律」)が衆議院で可決され、成立しました。
 偶然にも、その同じ日に、弁護士会でマイナンバー法に関する研修会があり、私もそれに参加してきたのですが、用意された座席がほとんど埋まるほどの盛況ぶりで、弁護士業界においても多くの方が関心をもっている様子が窺われました。

 

 同法にもとづく実際の運用としては,いよいよ来月の平成27年10月から、国内に住民票を有する者に対するマイナンバーの通知が始まり、年明けの平成28年の1月からは、実際の利用が開始されることになります。最近の報道等を見ていると、平成28年の利用開始に備えた社内の管理体制の構築や、社内規程の整備等に追われている企業も多いようです。
 こうした事業者の対応については、基本的には政府機関の公表しているガイドライン(http://www.ppc.go.jp/files/pdf/261211guideline2.pdf)などに沿って、企業ごとに対応を進めていくことが必要となりますが、適切な情報管理のためには、まずは情報の取扱責任者や担当者、物理的な管理方法を明確に定めるとともに、実際に個人番号を取り扱う社員に対しての十分な教育が重要だと思います。

 

 この制度、このような対応を迫られる企業の側にとっては負担の大きいものと思われます。
 しかし,マイナンバー法では,従来の個人情報保護関連法案と比較して罰則が強化されており,正当な理由無くマイナンバーを含む個人情報を漏えいした場合には4年以下の懲役もしくは200万円以下の罰金といった罰則規定が設けられておりますし(同法67条以下),何より,情報漏えいの場合に企業が信用を失うリスクは大きなものです。また,マイナンバーの利用範囲は、当初は主に社会保障・税・災害対策目的の利用に限定されていたところ、今回の改正マイナンバー法の成立によって金融分野(預金残高の管理等)や医療分野(予防接種の履歴や、検診結果等)にも利用範囲が広げられており、今後もマイナンバーに紐付けられる情報の範囲が広がる可能性があることを考えると、マイナンバーを含む個人情報の取扱いへの関心は今後さらに高まることも予想されるところであり,従業員等の個人情報を扱う企業としては,やはりできる限りの対応をしておくことが望ましいといえます。

 

 紛争案件に限らず,こうした法令に対応するための社内規程や就業規則等に関するご相談にも応じておりますので,お困りの際はご相談頂ければと思います。

弁護士 横山 太郎

2015.09.04更新

 最近、よくニュースなどで子どもが虐待され亡くなったという報道を聞きます。死亡まで至らずとも、虐待を受けた子どもはその後の発育に非常な悪影響を及ぼすとされています。
 それでは、どういった場合に虐待のおそれがあると言えるでしょうか。一般的には、体に説明のつかないアザが多くある、いつも親が怒鳴っている声が聞こえて子どもが泣いている声がする、服装がいつも同じで汚れている、などが挙げられます。
 また、育児の負担などで、心ならずも子どもに対して手を挙げてしまうということもあり、これが虐待にあたる場合もあります。
 注意が必要なのは、虐待は必ずしも「冷酷非情な親」により行われるものではなく、愛情があるがゆえに子どもにつらくあたってしまい、これが「虐待」あるいは「不適切な養育」にあたってしまう可能性があることです。

 

 それでは、「近所の子どもが虐待を受けているのではないか」、「育児が大変でつい子どもにあたってしまう」という場合、どうしたら良いでしょう。児童虐待防止法ではそういった子どもを発見した場合、東京都であれば各区の子ども家庭支援センターや、それぞれの地区を管轄する児童相談所に通告するようにとされています。
 そして、同法では「虐待を受けたと思われる」子どもを発見した場合に通告すべきとされております。児童相談所の調査などで実際には虐待はなかったことが明らかとなっても、あえて虚偽の通告をしたような場合でない限り、通告をした人がなにがしかの責任を問われることはありません。
 また、通告した人が誰であるかについては秘匿されることになっており、これが相手に伝わるということもありません。
 厚生労働省も、近年の子ども虐待事案の増加を受けて、平成27年7月1日から、児童相談所全国共通ダイヤル「189」が設置されました。この番号に電話をかけると、発信した電話の市内局番などから地域を特定して、管轄の児童相談所に転送されるというものです。携帯電話の場合は、ガイダンスに従って情報を入力すると、管轄の児童相談所が特定されるというものです。
 虐待から子どもを守るには、いかに早期に発見されるかにかかっているとも言えます。もし、近隣で虐待のおそれがあるような子どもを見つけたら、上記の「189」を活用してみてはいかがでしょうか。

弁護士 中村 仁志

2015.09.03更新

 最近,保険会社が遺産相続や子どものいじめ,離婚調停などで弁護士が必要となったときの弁護士費用を補償する保険を売り出すというニュースを見ました。

 

 自動車保険の特約で,交通事故にあった際に,弁護士に依頼してかかった費用を保険で賄うことができる弁護士費用特約(我々の業界では「べんとく」と言われています。)は以前からありましたが,遺産相続や子どものいじめなど日常生活において生じるトラブルが原因で弁護士に依頼する場合の弁護士費用を補償する保険は国内では初めてのようです。

 

 記事によると企業向けの団体保険の特約として売り出されるようですので,誰でも入れる保険というわけではないようですが,今まで弁護士費用が障害となって自分の権利を十分に主張できなかった人たちが保険を使って弁護士を活用し,自分たちの権利を確保することができるようになるのは好ましいことだと思います。

 

 当事務所のご依頼者でも交通事故に遭われた際に,弁護士費用特約を使って依頼されている方がいらっしゃいます。弁護士と聞くと敷居が高いと感じられる方が多いかもしれませんが,遺産相続など日常生活における法的トラブルに遭われた場合にも,弁護士費用を補償してくれる保険があるということであれば,そのような保険を利用して,弁護士を活用して頂ければと思います。

弁護士 藤井 直孝

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