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2016.06.08更新

 裁判に勝ったが、相手方が任意に支払わず、結局賠償がなされなかった。このような事態は、日本の民事裁判実務において頻繁に発生しており、大きな問題となっておりました。もっとも、法改正により、今後事態は改善するかもしれません。

 

 金銭の支払を命ずる勝訴判決を得た場合、債権者は、強制執行を申立て、債務者の有する財産から、強制的に回収を行うことができます。

 しかし、債務者の有する財産の特定は、債権者がしなければなりません。これが債権者にとって重い負担となっておりました。

 例えば、債務者の預金債権を差し押える場合、債権者において、金融機関名と支店名を特定しなければなりませんが、債権者は、通常そのような情報を知りません。そこで、金融機関に照会をかけて口座情報の開示を求めるのですが、以前は、金融機関は守秘義務等を理由に開示を拒むことが通常でした。

 そのため、開示を拒まれた債権者は、預金債権から債権回収をすることができず、泣き寝入りせざるを得なくなっていたのです。

 もっとも、近年、弁護士に依頼した場合には、弁護士会を通じた照会に応じる金融機関も出てきました。したがって、金融機関側にも照会に対応できる体制が整いつつあります。しかし、全ての金融機関が応じるわけではありません。

 

 このような状況の下、法務省は、民事執行法を改正し、裁判所が金融機関に口座情報を照会して回答させる仕組みを導入する方針を固めたようです。金融機関は回答が義務付けられるため、従来のように、守秘義務等を理由に開示を拒むことはできなくなります。

 法改正が実現すれば、強制執行による回収可能性が高まることはもちろん、預金の差押えを恐れた債務者が任意に支払に応じることも期待できるのではないかと思います。引続き、法改正について注視致します。なお法改正まで待てず、弁護士会を通じた照会についてご希望の方は、ご連絡下さい。

弁護士 平岡 広輔

2016.05.23更新

 先日,ある場所で職場のメンタルヘルスに関する法律問題について話をさせて頂く機会があったので,このブログでも関連する問題をいくつか取り上げてみたいと思います。

 

 昨今は書店にもメンタルヘルスに関する書籍が多数並び,「メンタルヘルス」という言葉が広く浸透してきた感があります。職場におけるメンタルヘルスの問題は,労働環境と精神疾患の関連性が認識されるにつれて政治的・社会的な取り組みが進められている分野であり,従業員を雇用する企業にとってはますます軽視できない問題となっています。

 

 こうしたメンタルヘルスに関する比較的最近のトピックが,本稿タイトルにあるストレスチェック制度の導入です。平成26年6月の労働安全衛生法という法律の改正によって,平成27年12月1日以降,使用者は毎年1回,従業員のストレスチェックを実施することが法律で義務づけられました。

(※ただし,従業員数が50人未満の事業所では当面の間努力義務にとどめられています)。

 

 既に実際の運用が開始されているところですが,本制度の概要について詳しく知りたい方は,厚労省の作成したサイト(http://kokoro.mhlw.go.jp)に制度概要や実際の問診票など豊富な資料が用意されていますので,そちらをご覧頂ければと思います。

 

 同制度の目的は,職場における自主的チェックと就労環境改善を通じて従業員のメンタルヘルス不調を未然に防ごうとするものです。この点,使用者が義務を怠ることで直ちに従業員に対する責任が生じることはありませんが,今後,十分な措置をとっていない事業所において労働者がうつ病等の精神疾患を発症したような場合には,使用者の安全配慮義務違反が問われる可能性があります。

 

 そのため,従業員の心身の健康に配慮した職場環境作りによる業務改善の実現に加えて,使用者の損害賠償責任等の法的リスクを減少させるためにも,今般の法改正による制度導入には積極的に対応されることが望ましいと思われます。

 

 その他,メンタルヘルス不調に関し実際に職場で起こる問題等については,また次回以降にお伝え致します。

弁護士 横山 太郎

2016.05.18更新

 近頃,ドッグランやペット同伴可能な行楽施設が増えたこともあり,ペットが同乗している車両をよく見かけます。では,ペット同乗中に交通事故に遭い,ペットが負傷した場合,人間が負傷した場合と同様の補償が受けられるのでしょうか?

 

 最近公刊された同乗中の飼い犬が怪我をした裁判例(大阪地裁平成27年8月25日判決)とペット損害のリーディングケースといわれる裁判例(名古屋高裁平成20年4月25日判決)を参考に,2回に分けて検討してみたいと思います。

 

ペットの法的位置づけ

 ペットは,法律上,飼い主の所有物である「動産」(民法85条,86条)とみなされ,車などと同様の「物」として位置づけられることとなります。同じ生物であっても「人」とは,その位置づけが大きく異なります。

 もっとも,ペットを単なる「物」である言い切ってしまうのは,ペットが家族の一員のようにかけがえのない存在であり,生命を持つ唯一無二の存在であることに照らすと,違和感を覚えるところです。

 ペット損害に関する裁判では,このようなペットが有する実態と法的位置づけの「ズレ」をどのように解消していくのかが議論されることになります。

 

ペットの治療費は全て賠償対象となるのか?

 交通事故により車両が壊れた場合,当該車両の修理に必要かつ相当な修理費は賠償対象の損害として認められます。

 車両と同様,ペットの治療費も,当該ペットの治療に必要かつ相当な範囲の治療費である限り,賠償対象となることに争いはありません。
 上記大阪地裁の裁判例においても,実支払い治療費12万4610円全額が損害として認定されています。

 

 ところで,車両損害については,修理費が,当該車両の客観的価値を超過する場合,当該車両の客観的価値が賠償額の上限を画することとなる「経済的全損」といわれる基準が存在します。では,ペットが車両と同様の「動産」だとすると,当該ペットの治療費が事故時点における当該ペットの客観的価値を越えてしまった場合,必要かつ相当な治療費を支払っていても,当該ペットの客観的価値の限度でしか賠償が認められないのでしょうか?

 

 リーディングケースとして紹介する名古屋高裁裁判例は,まさに,この点が争点となった事例です。

 

 第一審の名古屋地裁が,飼い犬の治療費約76万円を賠償対象の損害として認定したところ,名古屋高裁は「愛玩動物のうち家族の一員であるかのように遇されているものが不法行為によって負傷した場合の治療費等については,生命を持つ動物の性質上,必ずしも当該動物の時価相当額に限られるとするべきではなく,当面の治療やその生命の確保・維持に必要不可欠なものについては,時価相当額を念頭に置いた上で,社会通念上,相当と認められる限度において,不法行為との間に因果関係のある損害に当たるものと解するのが相当である」と判断し,当該飼い犬の購入費が6万5000円であったことを踏まえ,治療内容を検討し,治療費等のうち,13万6500円の限度で,事故と相当因果関係ある損害と認めました。

 

 認定金額については異論もあるところですが,その示した判断基準自体は,上記「ズレ」に正面から向かいあった先例的価値のある判断であったといえます(つづく)。

弁護士 荒木 邦彦

 

2016.05.12更新

 少子化と超高齢社会を迎え、いわゆる「終活」(人生の終わりのための活動)がブームになっています。「終活」の内容として、生前に死後の遺産の分配等を定めておく遺言書の作成が推奨されています。遺言書には、遺産をめぐる紛争を予防するという効果も期待でき、弁護士としても事案によっては作成をお勧めすることがあります。もっとも、ただやみくもに遺言書を作成すれば良いというものではありません。相続に関する基礎的な知識を押さえた上で遺言書を作成しないと、後に思わぬトラブルを招くことがあります。まずは相続の基礎を押さえておきましょう。

 

 相続を考える上で最初にチェックすべきは、相続人は誰か(相続人の確定)です。
 相続人になりうるのは、配偶者、子、直系尊属(父母や祖父母など、自分より前の世代で、直通する系統の親族)、兄弟姉妹ですが、誰がどのような順番で相続人になり、その法定相続分はどれくらいかは民法で規定されています。具体的には以下の通りです。

 

(1) 常に相続人になる人:配偶者。
            他に相続人がいる場合の法定相続分は以下の通りです。
            ・他の相続人が子の場合は、2分の1。
            ・他の相続人が直系尊属の場合は、3分の2。
            ・他の相続人が兄弟姉妹の場合は、4分の3。

 

(2) 配偶者のほかに相続人になる人
 ①第1順位:子。被相続人に配偶者がいる場合、子の相続分は2分の1。
 ②第2順位:直系尊属。被相続人に配偶者がいる場合、直系尊属の相続分は3分の1。
 ③第3順位:兄弟姉妹。被相続人に配偶者がいる場合、兄弟姉妹の相続分は4分の1。

 

※第1~第3順位というのは、子がいる場合は子が相続人になり、子がいない場合には直系尊属が相続人になり、子も直系尊属もいない場合には兄弟姉妹が相続人になる、という意味です。

※相続開始時に子が死亡していても、その子(被相続人から見て孫)がいれば、その子(孫)が代襲(だいしゅう)して相続人となります。子も孫も死亡していても、曾孫がいれば、曾孫が代襲して相続人となります。
※直系尊属で親等(しんとう)の異なる者の間では,親等の近い者が相続人となります。例えば、両親と祖父母が存命の場合、両親が相続人となります。
※相続開始時に兄弟姉妹が死亡していた場合、その子(被相続人から見て甥または姪)がいれば、代襲して相続人となります。なお、兄弟姉妹も甥姪も死亡していた場合、甥姪の子は代襲相続人とはなりません。
※同順位の相続人が複数いる場合は頭割り。ただし、兄弟姉妹については、父母の一方のみを同じくする者は双方を同じくする者の2分の1。なお、非嫡出子(法律上の婚姻関係にない男女の間に生まれた子)の相続分差別は平成25年の最高裁判例で違憲とされ、同年の民法改正で差別条項は撤廃されました。

 

図1

  

 遺言書を作成する際に、相続人になるのは誰で、その相続分はどれくらいかを念頭において作成すると、より合理的な内容とすることができるでしょう。もっとも、離婚や再婚、養子縁組など、身分関係に変動がある場合は、相続人の確定に困難を伴うことがあります。また、遺言書を作成する場合には遺留分を考慮しておくのが無難ですが(遺留分については別の機会にとりあげてみたいと思っています)、誰にどれくらいの遺留分が認められるかの判断は難しいことがよくあります。判断に迷うことがあった場合などは、当事務所にお気軽にご相談下さい。

弁護士 中田 貴

2016.04.19更新

 最高裁判所が、交通事故審理を迅速化するために、争点を絞り込みやすい訴訟の進め方や判決のモデルを今年秋頃までに作成する予定であるとの報道がなされました。2000年に弁護士保険が商品化されて以降、簡易裁判所における交通事故の訴訟件数が急増したうえ、審理期間の長期化や地方裁判所への控訴割合の増大がみられることから、最高裁は上記モデルの作成を決めたようです。

 

 審理の迅速化は、紛争の早期解決につながりますので、言うまでもなく、当事者にとって利益となります。そのため、最高裁が上記モデルを作成することは、望ましいことだと考えます。

 私が担当した交通事故訴訟においても、相手方当事者による五月雨式の主張立証を裁判所が許容した結果、審理が必要以上に長引いたケースがありました。仮に上記モデルがあれば、早い段階で争点を絞り込むことで、迅速な審理が実現できたのではないかと思います。

 

 上記モデルの内容について、引続き注視致します。

弁護士 平岡 広輔

2016.03.01更新

 今年も,日弁連交通事故相談センター東京支部「民交通事故訴訟 損害賠償額算定基準」が刊行されました。この本は,年1回刊行される,通称「赤い本」と呼ばれる本であり,裁判所,保険会社,弁護士含め交通事故事件関係者が,損害賠償額算定に際し必ず参照する,交通実務に大きな影響力ある本となります。

 

 今年度版では,入通院慰謝料の項目につき,大きな改訂がありました。

 

 入通院慰謝料は,怪我治療期間における種々の精神的・肉体的苦痛を慰謝するために支払われる賠償費目の一つであり,総治療期間や実通院日数等をもとに算定される損害です。

 

 赤い本においては,入院期間・通院期間をもとに原則的な賠償額基準を示した別表Ⅰに加え,特例として別表Ⅱという基準が示されています。

 

 これまで,別表Ⅱについては「むち打ち症で他覚症状がない場合は別表Ⅱを使用する。この場合,慰謝料算定のための通院期間は,その期間を限度として,実治療日数の3倍程度を目安とする。」との説明がなされていました。

 

 しかし,今年度版からは「むち打ち症で他覚所見がない場合等(軽い打撲・軽い挫傷を含む)は,入通院期間を基礎として別表Ⅱを使用する。通院が長期にわたる場合は,症状,治療内容,通院頻度をふまえ実通院日数の3倍程度を慰謝料算定のための通院期間の目安とすることもある。」との説明に変更となりました。

 

変更点は,以下の2点となります。

①別表Ⅱは,他覚症状のないむち打ち症だけではなく「軽い打撲,軽い挫傷」にも適用される。

②慰謝料算定は,総治療期間に基づき算出されるのが原則であり,実通院日数の3倍程度を目安とするのは,例外的な場合(通院が長期の場合)に限られ,かつ,症状,治療内容,通院頻度から,総治療期間に基づく算定不相当な場合に限られる。

 

 では,今回の改訂でむち打ち症に関する慰謝料額に大きな変化はあるのでしょうか? 

 私個人の感想としては,裁判実務に関する限り,大きな変化はないと考えています。

 

 今回の『実日数×3倍基準』の改訂は,東京地裁民事27部(交通事故専門部)の平成21年1月から平成26年3月までに言い渡された別表Ⅱを適用すべき判決の分析から,同基準が必ずしも厳密に適用されていないとの結論を得て(平成27年赤い本下巻81頁以下),改訂されたものとなります。

 『実通院日数×3倍基準』が,裁判実務上,絶対的なものとして機能してはいないとの現状を追認した改訂ですので,認定される慰謝料額に大きな変化はないと考えます。
 なお,上記分析結果からみて,改訂基準でいうところの「通院が長期」とは,少なくとも90日以上の総治療期間を要した事案が想定されているようです。

 

 他方,保険会社との任意交渉においては,『実通院日数×3倍基準』が,当然の前提・絶対的な基準として主張・適用されている例が間々見受けられました。よって,保険会社との任意交渉においては,ある程度の影響が見込まれるところです。

 

 『実通院日数×3倍基準』によると,むち打ち症で苦しみながらも,仕事上・生活上の都合で頻繁な通院ができず、痛みをこらえて生活を送る被害者には,充分な賠償がなされないこととなります。

 

 今回の改訂を機に,被害者の実情にあった適切な賠償を受けられる場面が増えるかもしれません。

弁護士 荒木 邦彦

 

2015.12.08更新

 先日法律相談を受けた話で,最近一戸建てからマンションに引っ越し,元の一戸建てが現在空き家になっているという方から,「知人から,最近法律が出来て家を空き家にしておくと取り壊されてしまうと聞いた。非常に心配だが大丈夫か」といったご相談がありました。

 

 この方が仰っていた最近の法律とは,平成27年5月に全面施行された「空家等対策の推進に関する特別措置法」と思われます。最近は空き家の問題が新聞等でよく取り上げられ,同年10月26日には横須賀市で同法に基づき全国初の空き家の撤去が実施されたという報道も流れたことから,同じように漠然とした不安を感じておられる空き家所有者の方は意外と多いのかもしれません。

 

 この点,同法では,同法の対象となる空き家について「空家等」と,そのうちの特定の条件に該当する「特定空家等」とに分類しています。
 ここで「空家等」とは,「居住その他の使用がなされていないことが常態であるもの」(同法2条1項)とされ,総務省・国土交通省の指針によれば,「居住その他の使用がなされていない」か否かは,建物への出入りの有無,電気ガス水道の使用状況,管理の状況等から客観的に判断するとされ,それが「常態である」か否かについては,年間を通して建物等の使用実績がないことが1つの基準となることが示されています。
 一方,「特定空家等」とは,「空家等」に該当するもののうち,特に以下の4つのいずれかの状態にあると認められるものを指すとされています(同法2条2項)。

 ・そのまま放置すれば倒壊等著しく保安上危険となる恐れのある状態
 (例 建物の著しい傾斜,基礎・土台の破損,屋根・外壁の変形・剥落・腐食など)
 ・そのまま放置すれば著しく衛生上有害となるおそれのある状態
 (例 石綿等の飛散,ゴミの放置・不法投棄による臭気やねずみ・ハエ等の発生など)
 ・適切な管理が行われていないことにより著しく景観を損なっている状態
 (例 地域の景観保全ルールに著しく不適合な状態など)
 ・その他周辺の生活環境の保全を図るために放置することが不適切である状態
 (例 立木の枝等による通行の妨げ,空き家に動物が住み着いたことによる臭気・害虫の発生など)

 

 このうち,同法に基づく建物の撤去等の対象となるのは上記の「特定空家等」に該当するものだけであり,加えて,その手続は所有者に対する事前の指導,勧告,命令等を経た上で,それでも状況が是正されない場合に初めて実施されることになります(同法14条)。

 従って,突然,事前通知もなく建物が撤去されることはありませんし,そもそも,空き家であっても上記の「特定空家等」に該当しなければ,その対象とはなりません。

 

 そのため,冒頭の相談者様のケースを含め,現在空き家を所有している方につきましても,それがよほどの危険性や周辺環境への悪影響が懸念される状態のものでない限りは,同法に基づく自己所有建物の撤去を心配される必要はないといえます(なお,冒頭の相談者様の場合,引っ越しから間もなく,管理のために頻繁に元の家を訪れているとのことでしたので,そもそも同法の「空家等」にも該当しないと思われるケースでした。)。

弁護士 横山 太郎

2015.12.03更新

 養育費・婚姻費用とは,親族間の生活保持義務(自分の生活を保持するのと同程度の生活を被扶養者にも保持させる義務)の一種とされています。貧しきときも富めるときも,互いに分かち合うことが求められる義務と言えるでしょう。

 しかし,人生においては,養育費等を取り決めた当時予想もしなかった病気・リストラ・新しい家庭の形成などの出来事が生じる場合があります。そのため,養育費等を取り決めた当時と比較し,一定の「事情の変更」が生じた場合には,養育費等の減額を求めることができるとされています。

 では,どのような「事情の変更」がある場合に,減額が認められるのでしょうか。

 最近公刊された婚姻費用に関する裁判例(東京高裁平成26年11月26日決定 判時2269号16頁)は「その審判が確定した当時には予測できなかった後発的な事情の発生により,その審判の内容をそのまま維持させることが一方当事者に著しく酷であって,客観的に当事者間の衡平を害する結果になると認められるような例外的な場合に限って認められる」と判断しました。

この裁判例に基づけば
 ① 予測できなかった後発な事情の発生であること
 ② 従前の取決めを維持することが支払義務者に著しく酷な状態にあること
 ③ 客観的に当事者間の衡平を害する結果となっていること

の要件を満たす限定的な場合にのみ,減額ができることとなります。

 具体的には取決めをした当時予測できるような事情(例えば相当程度の退職金が支給される定年退職等)を理由とする減額申出は認められない可能性があります。他方で,養育費についていえば,再婚による義務者側の扶養家族増加などは,減額事由として認められる可能性があります(東京家審平成2年3月6日,山口家審平成4年12月16日等)。

 また,例えば収入が減少した場合でも,その減少幅が「著しく酷」と評価できる程度である必要であり,また,酷な状況に至ったことにつき,義務者に責めがある場合(無謀な借金,理由なき退職等)などは,減額が認められない可能性があります(福岡家審平成18年1月18日等)。

 さらに,客観的生活状況等から権利者側の生活への影響が大きいと判断される場合(例えば権利者側が無収入)にも,減額が否定される可能性があります。

 養育費等の支払は,親・夫として当然に履行すべき義務です。
 しかし離婚を急ぐあまり,拙速に取り決めてしまうと,事後的にその内容を変更することは非常に困難となります。自身のライフプランを見据えた慎重な検討・対応が必要です。

弁護士 荒木 邦彦

2015.12.02更新

 2015年3月に最高裁(最判平成27年3月10日裁判所HP参照(平成26年(あ)第948号))は,競馬の当たり馬券の払戻金は所得税法上の一時所得ではなく雑所得であるとし,外れ馬券の購入代金について,雑所得である当たり馬券の払戻金から所得税法上の必要経費として控除できるという判断を示しました。
 報道等でこの裁判をご覧になって,外れ馬券の購入費用は必要経費として控除できるのだと認識された方も多いと思います。

 しかしながら,この最高裁判例が出た後で,外れ馬券の購入費用は経費ではないと判断する裁判例が出ていることはご存知でしょうか。
 2015年5月14日に出た東京地裁の判決(東京地判平成27年5月14日裁判所HP参照(平成24年(行ウ)第849号))では,当たり馬券の払戻金は一時所得であり,外れ馬券の購入費用を収入から控除することはできないと判断されています。
 この東京地裁の判決は,最高裁の考え方を否定しているのでしょうか。
 東京地裁の判決を読んでみると東京地裁判決が最高裁の判断を否定しているわけではないようです。というのは,東京地裁の判決では,3月の最高裁判決の判断基準が引用され,同じ枠組みで判断をしているからです。

 最高裁の考え方は,「営利を目的とする継続的行為から生じた所得は,一時所得ではなく雑所得に区分され」る,「営利を目的とする継続的行為から生じた所得であるか否かは,行為の期間,回数,頻度その他の態様,利益発生の規模,期間その他の状況等の事情を総合考慮して判断する」というもので,東京地裁の判決でもこの判断の枠組みは踏襲されています。

 それでは,なぜ結論が違っているのでしょうか。
 この理由は,両事案における馬券購入の態様が異なっていたことにあるようです。
 最高裁の事案では,馬券を自動的に購入するソフトを使用してインターネットを介して長期間にわたり多数回かつ頻繁に個々の馬券の的中に着目しない網羅的な購入を行っていたのに対し,東京地裁の事案では,最高裁の事案と同等以上の金額の馬券を購入し,同等以上の利益を得ていたという事情はあるものの,具体的にどのように馬券を購入していたか明らかでないので,その競馬による所得は,営利を目的とする継続的行為から生じた所得(雑所得)に該当しないと評価されています。
 最高裁の事案では,馬券を自動的に購入するソフトを使って一日に数百万円から数千万円,一年あたり10億円前後の馬券を購入し続けていたというのですから驚きです。
 両者の事案を比較してみると,通常の態様の馬券の購入では,その購入費用を経費とすることはできず,むしろ,外れ馬券の購入費用が経費となるケースは,レアケースと評価できると思います。
 報道等で紹介されている裁判例が一般的なケースに当てはまるものか,そうでないのかは,分かりにくい部分もあると思います。気になる裁判例がありましたらご相談頂ければと思います。

弁護士 藤井 直孝

2015.12.01更新

 「決闘」という言葉を聞いて、何を思い浮かべるでしょうか。私は、宮本武蔵と佐々木小次郎の巌流島での対決や、西部開拓時代のアメリカにおけるガンマンの対決を、まず思い浮かべます。いずれにしても、決闘という言葉から想定されるイメージは、古い時代に行われていた、特定のルールに基づく、1対1の私的な対決ではないでしょうか。

 

 決闘が、現代社会において法的に認められていないことは常識です。しかし明治時代には決闘是非論が巻き起こり、「文明の華」として肯定する主張や、「野蛮の遺風」として否定する主張など、様々な主張が展開されました。最終的には、明治22年(西暦1889年)、公衆の秩序維持を目的として「決闘罪ニ関スル件」という法律が可決され、決闘は禁止されました。そして、この法律は、現代でも効力を有しており、決闘を行った者は、同法律に基づき処罰されることになります。

 

 ここで、同法律上処罰の対象となる「決闘」とは、判例によれば、「当事者間の合意により相互に身体又は生命を害すべき暴行をもって争闘する行為」であるとされ、1対1で行われることは要件となっておりません。そのため、タイマンと呼ばれる1対1の対決のみならず、集団対集団の対決や、1対集団の対決についても、決闘罪は成立することになります。
 また、同法律は、決闘を挑み、または応じる行為についても処罰の対象としています(決闘挑応罪)。そのため、実際に決闘行為が行われなくても、決闘挑応罪が成立することがあります。

 

 このように、「決闘罪ニ関スル件」は、1対1の決闘行為にとどまらず、広く処罰対象を規定しておりますが、同法律が実際に適用されることはあまりなく、時折、暴走族等若者同士の抗争などに関して適用されるにとどまるようです。

弁護士 平岡 広輔

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